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 私事ですみません。愚息の嫁は東京生まれの、東京育ちです。毎年、盆と暮には、勤めのある愚息を置き去りにしても、律儀に孫を連れて来てくれます。暮に来ると家内の正月料理を手伝ってくれるのですが、いろいろな発見があります。
 正月料理に欠かせないクワイを彼女は見たことも食べたこともないというのです。昔は関東でもクワイは一般的な正月の縁起物だったのですが、産地の埼玉県が東京のベットタウンになり、畑が宅地化して生産されなくなったため、一般家庭の正月料理から消えてしまったのです。クワイは福山地方の特産品であることを再確認しました。
 東日本では雑煮の餅は四角い切り餅を焼いて入れ、魚はサケを用います。西日本では丸餅をゆがき、ブリを使います。汁も東はすまし、西は味噌仕立てが普通です。この区別は先のクワイの場合とは違って、昔からの風習の相違なのです。私たちは雑煮といえば丸い餅で当たり前と疑いもしませんが、東京育ちの彼女には違和感があるのだそうです。
 特にお祭りやお喜びの風習には意外に古いものが残っています。例えばお祝い事に出される赤飯は古代の赤米(あかまい)の名残らしいのです。ですから正月料理には古くからの風習が色濃く残されています。

 文政元年(1818)ごろ菅茶山によって編まれた「御問状答書(福山藩風俗記)」の雑煮の項には、ブリかタイあるいはハモ、焼き豆腐や大根、水菜の類を餅の上に置き…多くは味噌(汁)まれに醤油にて仕り…などと、現在とあまり変わらないレシピが記されています。
 同じ福山藩でも鞆は少し違ったようです。20年前、昭和59年に調査した鞆の記録があります。雑煮に入れる餅は丸餅が調査対象のすべてで、四角はゼロ。餅はゆがいて用います。ところがすまし汁が圧倒的で、西日本の風習とも福山地区とも異なっています。 これはだしに関係があると思えます。昆布やイリコをふんだんに使うのです。驚くのは三分の一の家庭でフグをだしに使っています。昔はもっと多かったと思います。
私の子供の頃、大阪にいたのですが、調理の免許も持たない私の父の手料理で、近所の人たちにフグ汁を振舞ったのですが、最初は誰も手を出そうとはしませんでした。 私たちの様子を見ながら、やがて舌鼓を打つようになり、こんな美味しい汁は初めてだと、大変喜ばれたのを覚えています。フグのだしほど美味しいものはないのです。
今はそんなことはありませんが、昔は鞆の人はほとんどの人がフグを自分で料理していました。
 せっかくの美味しい味出しを損なわないように、味噌仕立てにしなかったのだと思われます。しかし、同じすまし汁でも、東日本の醤油味よりはるかに薄味です。

雑煮の具は里芋、大根、にんじん、豆腐などですが、水菜を使わず「福たち」を用います。縁起をかついでの正月限定品です。
 面白いのは具に魚類をあまり使わないのです。アナゴやブリを入れる家庭もありますが、どちらかというと少数派です。代わりに竹輪やかまぼこを用います。鞆では魚は日常食べているので、ご馳走にはならないのでしょうか。
 雑煮だけを見てもその地域の古くからの風習が深くかかわっていることが分かります。

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